ウナギを復活させるための対策を共に考えよう
流域総合研究会 立川賢一

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1.はじめに
 2007年6月11日、欧州連合(EU)は農漁業相理事会において、ヨーロッパウナギの稚魚(シラスウナギ)の保護策を決定した。稚魚の漁獲量が1980年代に比べて1〜5%まで激減していることへの対策である。2008年に稚魚の漁獲量を35%減少させ、その後、段階的に減少率を高めて、2013年には60%まで減少させる。また、6月15日、絶滅のおそれがある野生動植物の国際商取引を規制するワシントン条約の締結国会議の総会において、ヨーロッパウナギは輸出時に原産国政府の許可を必要とする「付属書2」に掲載され、国際取引が規制されることになった。アメリカウナギもニホンウナギ(和名:ウナギ)もヨーロッパウナギと同様に資源の減少あるいは枯渇が懸念されており(Dekker,2004)、資源復活のための対策が急務となっている。

2.ウナギを食べる
 2001年から2005年までの平均で、日本におけるウナギの消費量は12.9万トンである。これは、年間で国民一人当たり1kg以上のウナギを食べている計算になる。加工品輸入量(活鰻換算)は8.4万トン、活生鰻輸入量は2.2万トン、国内の養殖量と天然漁獲量の合計は2.2万トンであった。日本のウナギ消費量の82.9%は外国からの輸入による。このうちニホンウナギの割合は75%程度と推測されている。

3.ウナギは何種類か
 世界で生息するウナギの仲間(Anguilla属)は15種に分類されている(Watanabe,2003)。日本には、ニホンウナギとオオウナギの2種が自然分布している。外国産ウナギも養殖されており、また放流されることなどにより「外来生物」問題が生じている。

4.ウナギの一生
 北西部太平洋の西マリアナ諸島の西方海域で若齢ウナギの幼生(レプトセファルス)が大量に採集されたことにより、この海域がウナギの産卵場であると推測されている(Tsukamoto,1992)。現在まだ、産卵する親魚の姿やふ化直後の幼生は発見されていない。生まれた幼生はレプトセファルスとなり、北赤道海流により西方に運ばれ、黒潮に乗り換えて、シラスウナギに変態する。日本、中国、台湾、韓国等の沿岸に約150日齢で到達する(篠田、2004)。シラスウナギは、河口域(汽水域)、湖沼、河川等で定住を始めるとクロコになり、おおよそ雄で4年以上、雌で8年以上をキウナギとして生活した後、ギンウナギとなり海に向かい、産卵場で生涯を終える。
注:ウナギは発育段階により呼び名が替わる。卵→プレレプトセファルス(ふ化後まもない幼生)→レプトセファルス(柳葉の形をした幼生)→シラスウナギ(ウナギの形に変態するが透明体である)→クロコ(低・無塩分水に適応して体色は黒色化する)→キウナギ(成長期のウナギで、腹部が黄色になる。この黄色が養殖ウナギと区別する目安となる。)→ギンウナギ(体色が銀色化する。産卵に向かうための「下りウナギ」と呼ばれることもあるが、不明な点も多い。)。

5.ウナギは何匹いるか−漁獲統計から
 日本では、シラスウナギの採捕量は1960年代に平均で130トンであったが、その後、減少し続けて、現在では僅か15%の20トン足らずに落ち込んでいる。シラスウナギが年間6億5千万尾(5000尾/kgの換算)も採捕されていた時代があったのだ。
 ウナギの漁獲量は、1960年代の後半では3000トン超の記録がある。仮に1尾150gとすれば、2千万尾のウナギが漁獲されたことになる。その後、漁獲量は減少を続け2005年には483トンの最低記録となった。これは36年間で実に85%の減少である。霞ヶ浦/北浦では、1961年にウナギの最高漁獲量で464トンの記録がある。しかし現在では僅か10トンである。ほんの40年間で98%も激減したことになり、枯渇状態となっている。

6.ウナギの減少原因は何か
 エルニーニョの発生により海流流路が変化し、ウナギ幼生の来遊量が減少するとの説がある(海洋環境変動説)(Kimura et al.2001)。シラスウナギを採りすぎているとの指摘もある(乱獲説)。ウナギにとって成長し、生育するための生活場が破壊され、荒廃が進んできたために成熟できるまで生活できないのではないかとの研究がある(生活環境破壊説)。立川(1999)はダムのような河川横断人工構造物が、ウナギのための河川生活環境を悪化させるとともに、生存のための移動をも妨げていると分析した。ウナギは定住適地を見つけることができなく、繁殖のために海に下ることもできないのである。また、立川(2003)は湖沼の人工湖岸率と漁獲量減少率との関係を調べたところ、自然度の高い湖沼ほど減少率が低いことを明らかにした。河川や湖沼で、自然豊かな環境を保持している場所が、ウナギにとって暮らしやすい生活場であると言える。ウナギにとって増えることができなく、減少させられている原因は数々あり複合しているのであろうが、現状では、絶滅のおそれのある螺旋(らせん)階段に落ち込んでいると思われる。成熟までに8年以上もかかるウナギにとって、この絶滅螺旋階段から抜け出すことは簡単ではない。ウナギ資源復活のための早急な対策が必要とされる。

7.ウナギを増やす対策はあるのか
 地球温暖化とエルニーニョ現象とを関連づける説もあるが確かではなく、まして人力で海流を制御することはできない。シラスウナギの採捕量を少なくするとか漁期を短縮するとかにより乱獲の影響を低くすることは可能であろう。最も確かででできうる対策の一つは、ウナギの生活環境を回復させることではないだろうか?霞ヶ浦/北浦の場合は、1963年に完成した常陸川水門によってシラスウナギが自由に遡上できる川の道が閉ざされてしまった。シラスウナギが河口に来遊する12月から4月の冬期に水門は開放されないのか?霞ヶ浦/北浦に入ったウナギのほとんどは定住することになるが、生活の拠点となる湖岸と湖底は現状ではウナギにとって望ましい環境ではない。ウナギにとって好ましい「衣食住」とは何かを考えなくてはならない。「衣」とは水量と水質である。「食」はもちろん食べ物で、「住」は住み処とか寝床である。ウナギは思いの外きれい好きである。水生昆虫、エビ・カニ類、魚類などの動物を食べるので、餌となる生物が豊富であることが望ましいし、ウナギの寝床を確保しないと育たない。

8.まとめ−ウナギと共に生きていく
 河川や湖沼においてウナギは食物ピラミッドの最上位に位置する魚である。ウナギの住んでいる自然環境は、生物が豊富であること、生物多様性が保たれていることを示している。ウナギの復活を図る努力は、自然環境を回復させることであり、ウナギだけでなく、人間の生活にとってもより好ましい方向に向かうことになると思う。
 縄文時代の貝塚からウナギの骨が発掘されており、日本人とのつきあいは古い。ウナギ食文化だけでなく、ウナギにまつわる昔話や信仰など話題も豊富である。ウナギは日本人の「心のふる里」を語る時の、原点にいて欲しい魚と言えないだろうか?