■アサザの生活史

 アサザは他の植物と同様に「種子」→「芽生え」→「定着個体」→「成熟個体の開花 種子生産」という生活史をもっています。水面に葉を広げて毎年開花するほど成長した個体は、時として1個体が数百メートルの大きさを占有するほどにまで地下茎を伸ばして成長(クローン成長)します。ここではアサザの生活史についてそれぞれのステージごとに説明します。


種子とその分散

  • アサザの種子は「永続的土壌シードバンク(埋土種子集団)」を形成し、発芽せずに土壌中で数年間生存することができる(Smits et al.1990)
  • 種子は非常に水に浮きやすいため、水流によって遠くまで散布される。種子はしばしば魚や水鳥に食べられるが容易に消化されるため被食散布は有効ではない(Smits et al.1989)
  • 種子は乾燥にも強く、種子表面の毛によって水鳥の体に付着することで、より長距離の種子散布も起こりうる(Smits et al. 1989; Cook 1990)



発芽特性

  • 浮葉植物であるが、水中では発芽が抑制され、光の遮られる土壌中でも発芽できない(Smits et al. 1990)
  • さらに冷湿処理や変温条件によって発芽が促進される(丸井 鷲谷 未発表)ことから、霞ケ浦では春先の自然な水位低下で露出する湖岸が発芽適地であると推測されている(鷲谷 1994)



実生定着

  • 実生は波があたる場所や他の植物に被われる場所では定着できず、定着には発芽と同様に「冠水しにくい裸地的環境」が必要である(高川 未発表)
  • 春先の水位低下がおこらなくなった現在の霞ケ浦では、自然条件下では実生はすべて定着に失敗している(西廣ほか 2001)


成長

  • 浮葉の生産には水中のカルシウムイオンを必要とするため(Smits 1992)、カルシウム濃度が低い酸性の湖沼では生育できない(Smits 1988)
  • アサザのクローン成長は夏ごろ最も盛んとなり、バイオマス(植物体の量)も最大になる。バイオマスのほとんどが葉と葉柄によって占められている。秋になると地上のバイオマスを根に転流しはじめ、冬には地下部のバイオマスが最大となる。生育期間を通して高い回転率(葉や葉柄の生産 枯死分解)を示す。(Van der Velde et al. 1979; Brock et al. 1983; Tsuchiya et al. 1990)
  • 水位の上昇時には葉柄を素早くのばして馴化することができる(Osborne 1982)が、あまりにも急激な水位上昇はアサザの物質生産を低下させ(Van der Velde et al. 1979; Tsuchiya et al. 1990)、時として個体群の消滅を招く(Brock et al. 1987)
  • 特に葉柄伸長などの馴化能力が衰える成長後期における急激な水位上昇は、アサザの物質生産に大きな影響を与えると推測されている(Brock et al. 1987; 西廣ほか 2001)



送粉および種子繁殖

  • アサザの花は半日花であるが、開花期間は6月頃から10月頃までと長く、開花期間には多くの花が咲く
  • 花粉のやりとりは昆虫によって行われ、ハナアブ ハチ チョウの仲間が多く訪花する(Van der Valk & Van der Heidjen 1981)。霞ヶ浦では特にイチモンジセセリが有効な送粉者であるとされている(丸井 鷲谷 1993)

  • 「異型花柱性」という繁殖システムをもち、長花柱花と短花柱花の2タイプ間で花粉がやり取りされることでのみ良好な種子生産がなされる(Ornduff 1966)。しかし自家受粉によってもわずかに種子が生産されることや、自家和合性が非常に高い等花柱花という第3のタイプの花型があることも知られている


  • 現在日本において、異なるタイプの花を咲かせる複数の個体が同じ場所に生育し、種子生産が良好に行われているのは霞ヶ浦だけである(上杉 未発表)


文責: 東京大学 保全生態学研究室 高川晋一 2003年5月27日

     
[前文]  [アサザの生態 ■アサザの分布とその現状]
 [■アサザの生活史]  [■生態系としてのアサザ]  [引用文献]

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