霞ヶ浦の再生を考える
〜霞ヶ浦開発と霞ヶ浦導水事業の虚構〜

2003年10月26日
水源開発問題全国連絡会 嶋津暉之

目次
1. 茨城県の水需要
2. 霞ヶ浦開発事業
3. 霞ヶ浦導水事業


1. 茨城県の水需要


(1) 水需要の動向と県の予測
茨城県の工業用水は約10年前から横這いになり(図1-1-1)、水道用水は頭打ちの現象を示してきている(図1-1-2)。 それに対して、茨城県は工業用水、水道用水とも実績と乖離した水需要予測を行っている(図1-1-3)。
図1−1−1茨城県の工業用水の実績と予測 図1−1−2茨城県の水道用水の実績と予測 図1−1−3茨城県の都市用水(水道用水+工業用水)の実績と予測
2)茨城県の将来の水需要
  工業用水は産業構造の変化で今後も大幅に増加することはない。一方、水道用水も、人口と水道普及率の頭打ち(図1-2-1)、 および一人あたり給水量の横這い現象により(図1-2-3)、現状に近い水量にとどまることは確実である。 なお、国立社会保障・人口問題研究所の推計では茨城県の人口は2005〜2010年がピークである(図1-2-2)。
図1−2−1茨城県の総人口と水道普及人口 図1−2−2茨城県の将来人口 図1−2−3茨城県水道の1人1日水量

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2.霞ヶ浦開発事業

   (1)霞ヶ浦の開発の経過(茨城県内水面水産試験場の資料より作成)
  表2-1霞ヶ浦開発の経緯    
   (2)霞ヶ浦開発事業の概要
目的
@利水 YP±0.0mからYP+1.3mの間で水位調整し、最大42.92m3/秒の都市用水および農業用水を開発する。
表2-2霞ヶ浦開発の都道府県別の開発水量    
   (3)開発事業がもたらしたもの
@ 湖岸堤建設による水生植物群落の破壊
A 完全水ガメ化による水質の悪化
B 湖水位の人為的な変動による水生植物の衰退
   
   (4)霞ヶ浦開発に対する水需要(茨城県)
 霞ヶ浦開発事業に対する水需要も県全体の動向と同様、ほぼ横這いの傾向が続き、開発水量を大幅に下回っている。(表2-4、図2-4-1、図2-4-2)
  表2-4霞ヶ浦開発による取水量(茨城県)
  図2-4-1霞ヶ浦開発の都市・農業用水の取水実績(8月平均)
  図2-4-2霞ヶ浦開発の都市・農業用水の取水実績
  
   (5)霞ヶ浦の水位操作問題
    開発計画の水位操作
  図2-5-1開発計画の水位操作
1996〜2000年の4年間行われた水位操作
  図2-5-2996〜2000年の4年間行われた水位操作
 冬場の水位を20cm上昇させる水位操作により、アサザの群落が1/10に減少したので、2000年11月から水位操作が中止された。
   しかし、国土交通省は昨年から新たな水位操作を行うことを画策している。
(新たな水位操作案:2月から5月の間に短期的に水位を1.3mに上昇させる。)
実際には霞ヶ浦開発の需要は計画を大幅に下回っているので、水位操作の必要性は失われている。

[参考]霞ヶ浦の実績水位   図2-5-3霞ヶ浦の実績水位
  図2-5-4霞ヶ浦の実績水位
※このシミュレーション結果は、2〜5月に水位を1.3mに上昇させなくても、渇水の年に許可水利権100%の取水に対応できることを示唆している。さらに取水の現状は、下図のように許可水利権を大きく下回っており、今後の使用予測も前述したように大きく伸びることは考えにくい。
  図2-5-5霞ヶ浦の実績水位
  


(6)霞ヶ浦の水質汚濁
  湖沼水質保全特別措置法に基づき、霞ヶ浦の湖沼水質保全計画が策定され、霞ヶ浦の水質改善のため、様々な対策が進められているが、霞ヶ浦の水質は一向によくならない。CODは約20年間も8mg/L前後の値が続いている(図2-6-1)。CODの環境基準3mg/Lには程遠い状態である。植物プランクトン異常増殖の原因である窒素とリンのうち、リンに至っては近年は上昇傾向にある。(図2-6-2)

 霞ヶ浦の水質汚濁の大半は植物プランクトンの異常増殖によるもので、リンがその制限因子になることが多いから、リン濃度が上昇傾向にあることは、霞ヶ浦の水質改善が絶望的な状態にあることを示している。

 霞ヶ浦の水質を改善する唯一の道は常陸川逆水門を極力開放して、完全水ガメ化をやめることであり、その方策を模索しなければならない。、(図2-6-3)
  図2-6-1霞ヶ浦の平均水質の経年変化(COD)
       CODは約20年間も8mg/L前後の値が続いている   図2-6-2霞ヶ浦の平均水質の経年変化(全リン)
       図2-6-2  リンに至っては近年は上昇傾向にある。   図2-6-3霞ヶ浦湖心の水質変化
図2-6-3 1971利根川河口堰−1973常陸川水門完全閉鎖の前後における水質の悪化   図2-6-4利根川河口堰、常陸川水門の位置関係
参考)利根川河口堰、常陸川水門の位置関係

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3.霞ヶ浦導水事業

(1)霞ヶ浦導水事業の概要
那珂川と霞ヶ浦を第一導水路(那珂導水路)、霞ヶ浦と利根川を第二導水路(利根導水路)で結んで、相互に導水できるようにする。 (図3-1)図3-1霞ヶ浦導水事業概略図
1) 目的
@ 利水  霞ヶ浦で最大5.0m3/秒の都市用水、那珂川で最大4.2m3/秒の都市用水を開発する。(表3-1-1)霞ヶ浦導水事業での都道府県別の需要予測table3-1-1霞ヶ浦導水事業での都道府県別の需要予測
 A 那珂川と利根川の流水の正常な機能の維持(既得用水等への補給)  霞ヶ浦から那珂川へ最大11m3/秒、霞ヶ浦から利根川に最大25m3/秒を導水することにより、  那珂川と利根川の既得用水等への補給を行う。
B 水質浄化  那珂川から霞ヶ浦に最大15m3/秒、利根川から霞ヶ浦に最大25m3/秒を導水することにより、  霞ヶ浦の水質浄化を図る。また、那珂川から桜川に最大3m3/秒を導水することにより、桜川の水質浄化を図る。
2) 進捗状況
@利根導水路:1989年に完成したが、1995年の試験通水で利根川の漁業被害を起こしたため、その後、導水は行われていない。
A那珂導水路:2002年10月に計画変更が行われ、トンネルの口径を小さくし、導水量を縮小した。 完成予定年度は2010年であるが、トンネル部分の工事が遅れており、先行きは不透明である。
3) 総事業費  1900億円になっているが、この金額にとどまるかは保証の限りではない。 4) 茨城県の負担額(推定)表3−1−2  
(表3-1-2)地方債、企業債の利息を含めると、茨城県の負担額はもっと大きな金額になる。
  
   (2)霞ヶ浦導水事業の虚構
     霞ヶ浦導水事業の三つの目的はいずれも虚構であり、全く必要性のない事業である。 (1)利水  1.で明らかなように、茨城県の将来の水需要は現状に近い水量にとどまる。現在、水需要を上回る水源をすでに保有しているのであるから、新たな水源開発は不要である。 (2)那珂川と利根川への補給  汚濁がひどく進んだ霞ヶ浦の水を那珂川や利根川に補給することは現実に困難である。利根導水路が完成してから10年以上経っているにもかかわらず、未だに通水が行われないのは、その補給が現実にできないことを物語っている。 (3)霞ヶ浦の水質浄化  那珂川や利根川から霞ヶ浦への導水を行うと、霞ヶ浦のCODが平均で7.2mg/Lから6.3mg/Lに下がることになっている。しかし、これは単に机上の水質シミュレーションの計算で得られた結果にすぎない。この水質シミュレーションの計算結果は下図で明らかなように、実際の測定値と大きく違っている。(図3-2-1)  しかも、霞ヶ浦の水質汚濁の大半は植物プランクトンの異常増殖によるものであって過栄養の状態にあるから、栄養塩類である窒素、リンの濃度を大幅に低下させなければ水質改善効果はない。ところが、窒素に関しては那珂川と利根川の方が霞ヶ浦よりかなり高く、リンに関しては利根川は霞ヶ浦と同程度であるから、窒素、りんの削減にはほとんどならない。したがって、水質改善効果はゼロに近い。(図3-2-2)  もともと、総貯水量が8億5千万m3もある霞ヶ浦の水質を導水によって改善するという考え方そのものが誤っている。
  


[参考]首都圏でも横這いになった水需要

 首都圏は人口集中などで都市用水の需要が増加し続けているから、ダム建設を進めないと、将来の水需要を充足できず、大変な水飢饉がやってくると思われていたが、実際に都市用水が増え続けたのは1990年頃までであって、その後はほぼ横這いの傾向に変わった(図1)。東京都の水道用水にいたっては、1971年頃から横這いが続き、最近10年間は漸減の傾向になっている(図2)。首都圏の都市用水が横這いになったのは、人口の増加がかなり小さくなってきたこと、一人あたり水道給水量が減り気味になってきたこと、産業構造の変化で用水型工業の生産増加がなくなったことによるものである。
 今後はどうかといえば、首都圏の都市用水はしばらく横這いに近い傾向が続き、十数年経てば、その後は次第に減っていくであろう。なぜなら、日本の総人口が2006年にピークを迎えるに伴い、首都圏の人口増加はわずかなものになって、2010年にはほぼ頭打ちになり、2015年以降は次第に減少していくからである(国立社会保障・人口問題研究所の最新の推計)。一人あたり水道給水量は、水洗便所の普及率がすでに100%に近づいていることと、今後は節水機器が普及していくことを考\えれば、これから増加することはまずないとみてよい。また、用水型工業の生産増加は今後ともないとみてよい。これらの要因の動向を踏まえれば、首都圏の都市用水は今後しばらくはほぼ横這いの傾向が続き、2015年以降は次第に小さくなっていくことは確実である。  参考図1
1990年以降利根川流域の都市用水はほぼ横ばいとなっている。 参考図2
東京都の水道給水量も最近はほぼ減少し続けている。 参考図3
利根川流域の総人口は、2015年をピークに減少傾向へ向かうと予想されている

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