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霞ヶ浦・北浦の自然再生によって見込まれる経済効果の試算 〜アサザプロジェクトによる逆水門柔軟運用、植生帯復元事業を対象として〜 |
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2004年6月17日 UFJ総合研究所 大阪研究開発本部 地域・環境室 農林水産業グループ 京都大学大学院 地球環境学舎 資源利用評価論分野 |
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1.研究の目的 2.研究の成果 T.全体的な試算結果 U.逆水門の柔軟運用によって見込まれる経済効果の試算 V.湖岸植生帯復元事業によって見込まれる経済効果の試算 W.想定される波及効果の一例 X.今後の課題 3.関連資料 T.試算解釈補足 U.逆水門柔軟運用の提案概要図(全4枚) V.漁業対象種の遡上降下時期および南部農業用水・鹿島工業用水使用状況 4.試算経緯 T.試算経緯 U.試算総括表 |
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1.研究の目的 霞ヶ浦・北浦の漁業の歴史は古く、平安時代まで遡ることができる。地域の重要な経済基盤であった霞ヶ浦・北浦の漁業の生産額は、昭和40年代以前には公表データにあるものだけでも現在価値で170億円(当時50億円)程度であった。このことは最終的に消費される小売価格が5〜6倍にはなる水産物では、かなり大きな経済基盤であったことが伺える。しかし、高度経済成長に伴う生活排水や農業排水等の流入による水質汚濁や、昭和43年より治水・利水を目的として進められてきた「霞ヶ浦総合開発事業」の影響(常陸利根川の改修、湖岸堤建設、逆水門の完全閉鎖など)などで、多様な生物(特に水産物)を育む環境が大きく崩れたことによって資源量が大きく減少し、そのため漁獲量が激減し、漁業経営の存続、及び地域水産関連産業の存続は、非常に厳しい状況にある。 一方「漁業」は単なる経済的な側面にとどまらず、漁獲によるリンや窒素の湖内からの効率的な回収が可能であり、環境面でも大きな効果を発揮出来る。また、食品関連産業や地域経済を支え、食文化をはじめ地域文化や歴史を支える非常に重要な地域産業である。 今回、霞ヶ浦・北浦において、かつての漁業対象種の資源量 及び 総合開発以前の漁業操業レベルが回復した場合の効果につき経済的側面から試算を行い、霞ヶ浦・北浦が「開発の代償」とした漁業経済の算出を試みる。 また、霞ヶ浦・北浦では、NPO法人アサザ基金の提案する総合的な戦略に基づき、産業振興と一体化した自然再生・環境再生が展開されている。水源の森から湖まで、地域住民主体で自然再生に取り組む「アサザプロジェクト」の内、今回は湖内における自然再生事業の経済波及効果、特に「逆水門の柔軟運用」及び「植生帯復元事業」の漁業経済に対する有効性に対して、併せて検証を行う。 |
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2.研究の成果 T.全体的な試算結果 ◆ 試算前提条件 (詳細はこちら) ◆ < 対象魚種 > ウナギ、ワカサギ、シラウオ、スズキ、ハゼ、エビ、イサザアミ、ヤマトシジミ < 対象漁法 > 延縄、定置網、トロール、笹浸し、採貝 < 試算方法 > 現在の技術で、霞ヶ浦総合開発以前レベルの漁業操業(出漁日数/漁労体数)を行い、現在の市場価格で取引を行った場合に想定される経済規模を算出する。 ・短期予測=出漁日数のみ昭和44〜48年平均レベルまで回復(漁労体数は現状維持) ・長期予測=漁労体数、出漁日数共に昭和44〜48年平均レベルまで回復 1)魚類・エビ類の漁獲回復に伴う経済シミュレーション ![]() 2)ヤマトシジミの漁獲回復に伴う経済シミュレーション ![]() 注)ヤマトシジミは、汽水域消失に伴い 現状従事者数は「ゼロ」であり、短期的回復は「トロール漁法」の混獲分のみと仮定した数字となっている。 3)漁業者利潤増のシミュレーション ![]() ⇒短期で141億円、長期で308億円の漁業者利潤増 |
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U.逆水門の柔軟運用によって見込まれる経済効果の試算 <逆水門の閉鎖により影響を受けた魚種> ウナギ、スズキ、ハゼ(遡上阻害)、ヤマトシジミ(汽水域消失) 逆水門の柔軟運用(詳細はこちら) -------------------------------------------------------------------------------- 第1段階:農閑期(9月〜3月)に有用魚種の行き来が可能な方法にて柔軟運用を行う (補足【魚種別遡上条件】及び 別添【漁業対象種の遡上・降下時期 及び 南部農業用水・鹿島工業用水利用状況 対照表】ご参照) ウナギ:シラスウナギの遡上、下りウナギの降海を妨げない。全量回復と仮定。 ハゼ :汽水域に遡上する5ヶ月の内、3ヶ月が柔軟運用の対象。増加期待量の3/5が回復と仮定 スズキ:汽水域を往復する7ヶ月の内、3ヶ月が柔軟運用の対象。増加期待量の3/7が回復と仮定 ![]() ⇒最大効果として、6,303.7トン、113億円の生産増が期待できる -------------------------------------------------------------------------------- 第2段階:年間を通じた逆水門の柔軟運用を行う ・汽水域の創出、底質の改善によるヤマトシジミの生息環境の回復を仮定 ・ウナギ、スズキ、ハゼ、イサザアミ、ヤマトシジミが増加期待量の全量回復を仮定 ![]() 注)ヤマトシジミに関しては、逆水門締め切りの影響によって塩分濃度が上がり、生産に支障をきたしている水門下流域に対してもプラス効果が期待できるが、この試算には含まない。 ⇒最大効果として、16,958.6トン、193億円の生産増が期待できる |
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V.湖岸植生帯復元事業によって見込まれる経済効果の試算 湖岸植生帯復元事業(自然再生事業) <湖岸植生帯の消失や産卵適地の消失により影響を受けた魚種> ワカサギ、シラウオ、エビ ・上記の魚種の増加期待量が全量回復と仮定 ![]() ⇒最大効果として、10,671.5トン、149億円の生産増が期待できる つまり、逆水門の柔軟運用と植生帯復元事業を並行して行い、水産資源を総合開発以前のレベルに回復することが出来れば、27,630トンの生産増、308億円の漁業利潤増が期待できる。 |
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W.想定される波及効果の一例 1)県の政策強化 (漁獲によるリン・チッソの回収) 茨城県では、平成14年に策定した「霞ヶ浦に係る湖沼水質保全計画」の中で、漁業に係る汚濁負荷対策の一環として「漁獲による汚濁負荷の削減」を挙げている。 本シミュレーションにおける、年間最大 魚類漁獲期待量 = 12,398トン(エビ類、ヤマトシジミ除く) ⇒窒素310トン、リン28トンの回収が可能 注)魚体に含まれる重量割合を窒素 2.5%、リン 0.225%として算出した場合 2)水質保全事業費の削減 例:高浜、土浦 底泥浚渫事業 (第3期計画事業費472億6,360万円/5年 平成16年度予算 50億円) 【第3期計画事業概要】 ヘドロ浚渫量:284万立方メートル/5年 窒素回収量:219.0t/5年(土浦 73.0t/5年 高浜 146.0t/5年) リン回収量: 22.5t/5年(土浦 9.5t/5年 高浜 12.5t/5年) ⇒事業費削減(50億円)+ 経済創出効果(308億円)=358億円の経済効果 注)浚渫事業は、浚渫土処分地造成に伴う流域の森林破壊(土砂採取)など、水源地の破壊も伴う。 3)ヤマトシジミの環境浄化作用 ヤマトシジミは植物プランクトンを餌としており、湖中の窒素やリンの循環に大きな役割を果たしている。宍道湖のデータでは、宍道湖全体のシジミは、全湖水を3日間でろ過しているというデータがある他、吸収した窒素を体内に蓄え、シジミの漁獲として効率よく湖外に取り出す役割を果たしている。 4)工業用水の農業用水転売による企業の負担減(逆水門の柔軟運用) 企業の余剰工業用水に対する無駄な費用負担分が、農業用水への転売収入によって軽減 される。 【参考】鹿島南部農業用水 収入総額 :3,542万円 (平成13年度 鹿島南部農業用水機場特別会計決算書に基づく) |
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X.今後の課題 1) 試算方法に関して 今回の分析は、あくまでも、霞ヶ浦・北浦の水産資源が過去の資源水準に戻った場合の効果を、現在価値で直接的に分析したものである。また、効果に関しても「漁業の利潤増」という一次効果のみの分析である。従って、 @社会的費用の削減効果、多面的機能の評価(周辺地域住民に対する便益の増大を含む) A地域経済・産業間などへの経済波及効果 B市場分析を含めたシミュレーション (魚種によってはマーケットが非常に小さいことで、漁獲量の回復によって価格が下落することも 考えられる) C生態学的な視点を含めた、資源動向管理の導入(水産物再生産関係の考慮) などをふまえながら、試算を深めていく必要がある。 2) アサザプロジェクトに関して NPO法人アサザ基金が提案している「逆水門の柔軟運用」および「植生帯復元事業」に対しては、上記分析に加え、アサザプロジェクトのその他の事業(流域の産業振興や、健全な水循環の再生)との連携による波及効果などを含め、今後、政策評価を進める必要がある。特に「逆水門の柔軟運用」に関しては、提案の実現性につき、生態学的な環境動態の評価、費用対効果も含めて検証が必要であり、同じく遡上阻害による漁業被害を軽減する方法として提案されている「魚道の設置」との比較も行う必要がある。 今後、さまざまな分野からの意見などを集めながら、霞ヶ浦・北浦の自然再生に関する具体的な評価手法を導き出していきたい。 |
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資料.試算解釈補足 1)試算前提条件 @漁労体数、現在の一漁労体あたり平均出漁日数は『漁業・養殖業生産統計年報』の「4.指定 3湖沼生産量」H9〜13年の平均値に基づく。 ACPUEの算出方法は 漁獲量/出漁日数(漁獲量、出漁日数はいずれも『漁業・養殖業生産 統計年報』―内水面漁業・養殖業の部(全国)―4.指定3湖沼生産量―(1)漁業種類・魚種別 生産量)H.9−13平均』に基づく B魚種別価格一覧 (2004年4月現在) ウナギ : 3,000 円/kg (延縄、定置網、笹浸、トロール)卸業者ヒアリング ワカサギ : 700 円/kg (定置網、トロール)漁業者ヒアリング シラウオ : 500 円/kg (定置網、トロール)漁業者ヒアリング ハゼ類 : 1,700 円/kg (定置網、トロール、笹浸)卸業者ヒアリング スズキ : 550 円/kg (定置網)漁業者ヒアリング エビ類 : 1,531.2円/kg (定置網、笹浸)水産物流統計年報平均 イサザアミ: 50円/kg (トロール)漁業者ヒアリング 注)ヒアリングの結果は公的なデータによる裏づけや、複数のヒアリング結果を比較することによって、バイアスが かからないようにしている。 2)魚種別遡上条件 ウナギ:14度前後の水温を好適温とし、比較的沖合いの水流の強い場所を、夕刻から夜間に起こ る上げ潮に乗って遡上し、特に日没前後に水流の強さが最高に達するときに最も多く遡上 する。 スズキ:遡上の通路は、河岸付近よりも比較的沖合急流地帯に多い。日没直前または日の出 直後の遡上が多く、夜間の遡上は少数。満潮の影響による逆流の最も強いときに遡上。 ※参考文献 「霞ヶ浦・北浦におけるウナギ・スズキ及びボラの遡河について」(加瀬林 成夫) 3)高すぎる工業用水 負担減に向けた引下げの動向 @日本経済新聞掲載記事(2004年2月25日) 第1期、第2期: 32.7円/m3 第3期 : 75.0円/m3→ 59.3円/m3 に引き下げ A日本経済新聞掲載記事(2004年3月24日) 2004年4月から2年間にわたり、鹿島新設工場については工業用水の料金を半額とする優遇措置。既存工場の契約水量のうち未使用分を新規工場に振り分ける形を採り、既存工場の負担軽減へ。 |