み ん な の た め の 地 球 観 測

(財)リモート・センシング技術センター(RESTEC)  研究部部主任研究員  上林 徳久 氏 
 
上林 徳久 氏 


貴重な映像や画像を見ながら、地球温暖化のお話など、衛星を使ってこそできる
地球規模に視野を広げた取り組みについても お話ししていただきました。
はじめに
宇宙からカエルを見つめる
地球温暖化と生態系の危機
生きとし生けるもののためのリモートセンシング

 はじめに

近年、市民活動が中心となった自然再生事業が全国各地域で進められています。

これら自然再生事業においては様々な形で環境モニタリングが行われていますが、そこには衛星画像情報提供で対応が可能な情報ニーズやユーザーが多く潜在します。

市民活動が中心となった自然再生事業の中で、霞ヶ浦とその周辺で進められているアサザプロジェクトはその代表例であるので、私は、アサザプロジェクトとの連携を進める中で、市民自らが社会システムを構築し自然を再生するために有効な情報源となる衛星画像情報提供のあり方や、有効な道具となるリモートセンシング技術の全く新しい利用方法について検討、提案しています。

 宇宙からカエルを見つめる 

霞ヶ浦流域に無数に存在する谷津田は、霞ヶ浦における貴重な水源地であるにもかかわらず、その分布や現状に関する資料や情報がほとんどありません。

そこで、衛星画像と谷津田の現地状況とを比較して、画像上の発色状態と、環境指標生物であるカエルが産卵する湿地や湧水地との対応づけを行うことで、カエルとカエルのすみかである霞ヶ浦の水源地を見つけ出す試みを実施しました。

対象地は、牛久市の牛久沼に近い遠山(とおやま)というところにある谷津田です。衛星データはあらかじめコンピューターで画像処理され判読用に印画しておきます。画像は特殊なカラー合成処理がなされており、画像上の発色状態がどの地表状態に対応しているのかをよく見てみます。

衛星データは使うデータや処理方法によって様々なカラー合成画像が作成できますが、今回は判読に良く用いられる一般にフォルスカラーと呼ばれている処理画像を使います。

その画像では、例えば、森林は赤色に発色しています、赤色に発色している周辺の斜面林に囲まれたいくつもの谷津田の形状が判読でき、その中に湿地と推定されるところが緑色に発色している箇所があります。実際に画像上で谷津田の中で濃い緑色で発色していた地点に行くと、湧水を確認できました。(写真左下)

※絵をクリックすると大きな画像が表示されます。

今回、223箇所の湧水地が抽出されましたが、その湧水地とカエルのすみかとの関係はどうでしょうか?
抽出された湧水地に卵塊やオタマジャクシの生息が確認できるかアサザ基金側で現地調査を行った結果、衛星画像から見える湧水地とカエルの分布に相関があることがわかりました。

今回の調査では、衛星画像判読による情報抽出を総合学習に取り入れることにより、地域住民による衛星画像情報と現地調査を組み合わせた谷津田現状把握手法を検討しました。

霞ヶ浦の水源の状況について湧水を伴う湿地とそこに生息する生物を調査することで評価しようという試みです。これら調査結果は最終的に「谷津田マップ」としてまとめられました。

実際に調査を実行したのは、その地域における子供達であり、活動拠点としては、地域コミュニティの核となる小中学校の総合学習時間を利用しました。

アサザ基金の皆さんが現在牛久市と共に取り組んでいる小中学校の総合学習プログラムでもあります。


「生きもののゆりかごである谷津田を観察し」

「谷津田の地図を作り」

「インターネットで紹介し」

「各校、市全体で共有」


今後は、野外観察の結果を地図化すると際に、衛星画像情報と地理情報システム(GIS)を合わせて利用していく予定です。

→例えば、GPS機能つき携帯電話を持って現地に行き、湧水地やカエル産卵場所の位置を記録し、学校に持ち帰ってからGISを使って衛星画像上の湿地等との対応を検討します。
出来上がった地図は「谷津田マップ」としてインターネット経由で牛久市や牛久市内小中学校等の地域全体で共有することをめざします。 ( それぞれの 協力の仕組みは こちら です。)

   ※ 絵をクリックすると大きな画像が見られます 。


今回の出前授業及び野外実習の対象校としては、牛久市街地南部に残存する遠山地区谷津田に近い茨城県牛久市向台小学校及び南中学校を訪問しています。

そこでは、実際に子供達にシンプルなフォルスカラー画像を判読してもらうとともに、判読抽出した湿地を野外授業において確認、観察してもらいました。

学校の近くにある谷津田のことを日頃からよく観察している子供達は、衛星画像について多少の説明を受けただけで、予想以上に、かつ驚くほど正確に湿地とそこに生息する生き物の分布場所を判読抽出していきます。

多くの研究者が論文に書いている分類処理アルゴリズムやそれを用いたコンピューターによる自動抽出の事例研究などは比較にならない程でした。

またこれらの調査は、JAXA/EORCからRESTECに対する委託調査である「環境分野(自然再生事業)における地球観測衛星データ利活用の仕組み作りに関する予備的検討」として実施しました。

霞ヶ浦周辺流域の谷津田等湿地の再生をテーマとして、出前授業及び校外実習を実施し、行政、教育機関、地域コミュニティ、NPO等が一体となり進める自然再生事業の現場における地球観測衛星データ(ALOSデータ)利活用の仕組み作りのための予備的検討として実施しました。このフィージビリティスタディ(F/S)によって、衛星画像情報を利用した自然再生、地域社会再生のためのひとつの活動モデルが示されるとともに、衛星画像情報による霞ヶ浦の水循環再生のための現状把握活動がスタートしました。

NPOアサザ基金の業務支援を得つつ実施されたこれらの活動は、報道機関にも注目され、読売新聞、東京新聞等数社の各紙面において市民活動における初めての衛星データ利用事例として紹介されるとともに、NHK放映「地球大好き・環境新時代」においてもアサザ基金の活動とともに衛星画像が紹介され、注目を集めました。

脚注※:ALOS (Advanced Land Observing Satellite)は、陸域を中心に観測する衛星です。高性能センサーを搭載し、9月に打ち上げが予定されています。 (→詳しくはこちらをどうぞ)



地球温暖化と生態系の危機 

後半は、ロシア極東で頻繁に発生している大規模な森林立ち枯れや森林火災、森林伐採について紹介します。

近年、だれもが認めざるを得ないほど地球温暖化のスピードが加速化し、今後私達の生活に予想できないような恐ろしい影響を及ぼす可能性があります。

森林をベースとする生態系そのものが改変、消滅、北方移動してしまうという兆候が日本に近いロシア沿海地方に分布する北方林南限地域に見ることができます。
 
私は現在北方林が今どうなっているかについて調べています。(観測地や、方法はちら

地球上の森林としては世界最大級である北方林の南限地帯は気候変動の影響を最も受けやすいと考えられる生態ゾーンの境界にあり、この地域で起きている森林立ち枯れ現象は地球温暖化による植生変動の最初のシグナルとも考えられる現象です。 (写真はこちら

1983年から時系列的に取得された衛星画像を判読すると、画像上で緑色に見える立ち枯れ地が大規模に拡大していくのが判読できます。

1991年の段階では、すでに10km四方の針葉樹林が枯れてしまいました。

森林が枯れるメカニズムは複雑で特定するのは一般に困難ですが、原因としては地球温暖化によよって乾燥害が頻発したり、キクイムシ等食害虫の増殖が進んだことなどが考えられます。

 

立ち枯れが進み、それを理由にした伐採が進むと、人為的影響による森林火災も発生しやすくなります。

大規模な森林火災が発生すると、永久凍土が溶け、凍土中に大量に含まれるメタンが大気中に放出されます。

メタンの温室効果は二酸化炭素の20倍以上もあります。大規模な森林火災だけでなくメタンの大気中への放出が加わることで地球温暖化はますます進行します。

そのことは生態系の危機でもあり、人類にとっても生存の脅威となります。。

     ※絵をクリックすると大きな画像が表示されます。



生きとし生けるもののためのリモートセンシング

このまま地球温暖化が続くと、地球上で多くの生態系が消滅し、(もう既に多くの生物や生態系が消滅しています。)最後には人類も含めて、地球誕生以来の歴史上4度目の生物絶滅を迎えてしまうのではないでしょうか。

このような危機が、もう今そこにある危機であることを私達科学者は多くの人に伝え、理解させなくてはなりません。リモートセンシング技術や地球観測データを利用して、説得力のある警鐘を鳴らすことが、生きとし生けるもののためのリモートセンシングとなります。

地球上の人類が、それぞれの繁栄のために経済活動を行っている一方で、知らず知らずに自らを絶滅に追いやっていることになってしまうことについて、我々はもっと説得力のあるシグナルを見つけ示す必要があります。

その道具としてリモートセンシングや地球観測技術をもっとうまく利用すべきと考えます。

子どもにツケを回さない、それは環境問題でも同じです


 
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