霞ヶ浦導水事業の代替案として常陸川水門(逆水門)の
柔軟運用による水質浄化の実施を求める要望書 (本文)
2009/10/01


国土交通大臣 前原誠司 様

                           2009年10月1日
                       NPO法人アサザ基金
代表理事 飯島 博

 霞ヶ浦の再生に向けて長年取り組んできた私たちは、今回の国交相が発表した事業見直しの対象として霞ヶ浦導水事業が含まれたことを受けて、同事業の代替案を提案します。一部には、同事業が中止になることで霞ヶ浦の水質保全策が後退するといった声も聞こえますが(国が管理する湖をきれいにする方策を一体どうするつもりなのか。茨城県知事,茨城新聞9月21日)、しかし、私たちはそのような懸念を全く感じていません。
霞ヶ浦導水事業が目的として掲げる霞ヶ浦の水質浄化については、より有効かつ低コストで効果的な代替案「常陸川水門の柔軟運用」が実施可能であると考えるからです。
 私たちは1997年以来この代替案を各方面に提案し続けてきました。その間、2003年には民主党の国会議員団がこの提案を受けて現地調査を実施して、関係行政機関や団体等との意見交換を行いました。その後も度々国会で質疑が行われています。
 また、この常陸川水門の柔軟運用案の実施による効果については、大きな水質浄化効果が見込まれる以外にも、大手シンクタンクが年間193億円の漁業利益増が見込まれるとする試算結果(2004年)を発表するなど、この提案は単に湖の水質浄化や生態系保全への効果のみならず、地域の活性化にもつながるものとして高く評価されてきました。

 霞ヶ浦導水事業による霞ヶ浦の水質浄化機能については、事業の実施によって逆に湖の水質を悪化させる恐れがあると指摘する専門家もあり、その評価は定まっていません。さらに、那珂川では環境を悪化させるとして漁業関係者が事業中止を求める裁判を起こしています。
 霞ヶ浦導水事業によって霞ヶ浦への導水が行われた場合には、取水基である那珂川の水に含まれる窒素やリンが、これまで以上に霞ヶ浦でのアオコなどの植物プランクトンを増殖させる恐れがあり、結果として霞ヶ浦の水質をさらに悪化させるという研究結果が発表されています。
 霞ヶ浦の水質浄化には、湖の富栄養化の原因となる窒素やリンの除去が大きな課題となります。その点からみても、霞ヶ浦導水事業が期待する那珂川からの導水による希釈効果(窒素やリンの除去効果は無い)には大きな疑問を持たざるを得ません。

 水質浄化に実効性のある「湖からの窒素やリンの除去効果」※については、私たちが同事業の代替案とする「常陸川水門の柔軟運用」の方が遥かに効果的で実現性が高いと考えます。水門の柔軟運用(湖と海との間の生物移動を可能する管理)によって湖の水産資源の回復を図り、漁業を活性化させることで、漁獲をとおして窒素やリン(魚体に含まれる)を湖から除去することが可能となります。
私たちはこの提案の実現によって、霞ヶ浦導水事業が想定した水質改善目標の達成は十分に可能と考えています。しかも、この提案の実現には、ほとんどコストが掛からず、漁業や地域の活性化(例えば、天然ウナギの産地として再生し、湖のブランド価値を高めたり、観光を振興するなど)という付加価値も生まれます。

※  常陸川水門の柔軟運用による水質浄化効果については、漁獲増にともない年間窒素を約255トン、リンを約51トン湖から除去することができると予測しています。尚、霞ヶ浦導水事業は希釈効果を期待しているため、窒素・リンの除去はゼロです。

 同時に、この提案を実現させることは、官僚が縦割り機構の中で発想し立案した施策(霞ヶ浦導水事業)に対して、地域住民の視点や知恵を活かし創意工夫に満ちた施策の有効性や効果を示す格好の機会になると考えます。これは、政府が掲げる「脱官僚依存」にも合致するものです。
 この提案の実現には、先の民主党議員団による視察の際にも明らかになったとおり、水門の柔軟運用案に関わる国交省や農水省、環境省、経産省などの関係省庁や茨城県などの関係行政機関を束ねる政治のリーダーシップが不可欠です。これは、政府が掲げる政治主導による政策立案や施策の実施に合致するものであり、政治主導による効果や実効性を国民に知らせる格好の場となると確信しています。
 2002年10月に私たちは、関係省庁等が集まり常陸川水門の運用や水位管理について協議する円卓会議の開催を国に要望しました。これを受けて民主党の谷博之議員が第155回国会参院決算委員会で質問を行ったのに対して、扇国土交通大臣(当時)が「円卓会議の開催」を明言しました。しかし、いまだに円卓会議は実現していません。

 私たちはすでに常陸川水門の柔軟運用に関連する事業を推進しています。現在漁協や農協、スーパー等と連携して、駆除した外来魚を肥料として栽培した農作物をブランドとして販売する取り組みを流域で行っています。このような事業を促進することで、効果的な水質浄化と同時に生物多様性保全や環境保全型農業の推進が実現すると考えます。仮に、年間1000トンの外来魚を駆除すると、湖から窒素を約25トン、リンを約5トンも取り出すことができます。これらの窒素やリンは肥料として流域の農業で活用されることになるので、除去後の処理費用もかかりません(湖から窒素やリンを除去する目的で国交省が実施している底泥浚渫は、漁獲より除去効率が低い上に、取り出したヘドロの処理に大きな費用がかかります。さらに、その効果は専門家からも疑問視されています。)
 また、湖での水産資源の再生につながる植生帯の復元事業を、1996年以来国交省(旧建設省)や漁協、地域住民と協働で実施していきました。常陸川水門の柔軟運用と併せて植生帯の復元が進めば、湖の生態系や水産資源の回復が確実に進むと確信しています。それは同時に、湖の自浄力を高めることにもつながります。

以上の理由から私たちは、霞ヶ浦導水事業が中止された場合にはむしろこれまで以上に地域での自立的な取り組みが活性化され、行政主導では実現できなかった効果的で総合的な湖の水質浄化事業や環境保全事業の展開が可能になると考えています。
 私たちは、国交省との協働も含め、農林水産業や企業、学校などの多様な主体と一緒に、これまでに18万人の市民の参加による市民型公共事業「アサザプロジェクト」を実施してきました。湖の再生への取り組みは、水源地の保全をはじめ流域全体に広がっています。このように、霞ヶ浦では多様な主体による協働がすでに動き出し、これまでに多くの経験や実績があります。私たちはこれらの社会的起業の手法を活かすことで、大規模な公共事業の見直しを実現することができると考えています。
これからは、縦割り専門分化した官僚組織が立案する公共事業とは異なり、市民が地域資源を自在に組み合わせた総合的な公共事業を提案し、政治のリーダーシップで関係行政機関を連携させ、その実現を図るという「新しい時代の公共事業」が必要です。霞ヶ浦導水事業は、官僚組織が立案する自己完結型(個別・単機能型)事業の限界と弊害を示すものでもあり、同事業の見直しを行う意義は極めて大きいと考えます。今回実施される公共事業の見直し作業をとおして、新しい社会の実現に向けた公共事業のあり方が議論されることを願います。

 上記のように霞ヶ浦には、政府が掲げる脱官僚依存や政治主導による政策を市民と共に実現するための条件が十分にあると確信しています。
 新しい社会を実現させるために、そして、新しい時代の公共事業のあり方を示すために、霞ヶ浦導水事業の代替案として、常陸川水門の柔軟運用を実施されるよう要望します。





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