(別紙)要望に関する説明書
1.はじめに
私たち宍塚の自然と歴史の会は、宍塚大池の里山を良い形で次世代に伝えたいと願う人たちの集まりです。平成元年(1989)発足以来、継続的な年70回以上の観察会、里山サミットなどのシンポジウム、聞き書き「里山の暮らし」などの出版、谷津田米のオーナー募集、小学生の総合学習への協力など様々な活動を通じて里山保全に微力を尽くしてきました。会員は約540名、土浦、つくば両市を中心に北海道から九州に至る広い範囲に及びます。
ご存知のように、この3、40年余りの間に都市近郊、特に首都圏では身近な自然が急速に失われてきています。兎追いしかの山も小鮒釣りしかの川も思い出の中だけの存在になってきていますが、宍塚大池には例外的に豊かな自然が保たれています。ここは土浦市内で有数の自然環境であるばかりでなく、首都圏全体の中でも屈指の存在であることは「土浦市宍塚大池地区の自然環境保全と開発との調和に関する研究」(土浦市・筑波大学)にも述べられているところです。
ここは、池を囲んで、谷津、斜面林、平地林、草地がモザイク状に広く展開しています。落葉樹、常緑樹、広葉樹、針葉樹、竹林などさまざまなタイプの林があります。多様な植生を反映してここには約700種(これは全県下で記録されている種の約1/3)の植物が生育しています。
豊かな植物相に支えられて、動物の種類も豊富で、たとえばチョウの種類は63種(全国に生息する種の1/4以上)、国蝶のオオムラサキの生育も確認されています。トンボも全国に生息する種の1/4以上が観察されています。カモの仲間のように、秋、北国から飛来する冬鳥、サシバをはじめ、春、南から渡ってくる夏鳥、常時ここに棲む留鳥、ここを経由して渡る旅鳥など併せてこれまでに145種以上の野鳥の観察記録があります。絶滅が憂慮されているオオタカをごく普通に観察できる場所でもあります。キツネ、タヌキ、イタチ、ノウサギ、アカネズミ、ハツカネズミ、カヤネズミなど多くの哺乳類が観察されています。
宍塚大池のまわりには、宍塚古墳群をはじめ、旧石器時代後期(1万数千年前)からの各時代の遺跡が十数か所知られています。国指定史跡である上高津貝塚では、縄文時代の食べ物などが調査され、生活の様子が研究されてきました、栗崎遺跡では縄文時代の生活用具と古墳時代の祭りの道具が数多く発見されています。地下の遺跡は祖先のくらしのようすや願いを後の世に伝えてくれます。
宍塚大池のような里山の自然は白神山地や知床半島の森のような原生の自然ではありません。里山は長い間、人間の力が作用してできあがった自然です。農林業を通じて人々が利用し、人々の暮らしと共存してきた自然です。ここには多種多様な生命が維持されてきました。かつては人為が加わった自然を低く評価する傾向もありましたが、最近では里山の生物相の豊かさは原生林以上と言われています。地球規模で生物の種類の減少が問題になっている現在において、種の多様性の維持に里山が果たしている役割は大きいと考えられます。
里山は長期間にわたる人と自然の共同作業によってでき上がってきたものであり、その意味で、ひとつの文化的所産であり、日光東照宮、法隆寺五重塔に勝るとも劣らない文化遺産ということができます。宍塚大池に来た大人たちの中には心の故郷との再会と感じる人が少なくありません。心を和ませ、安らぎを与える場になっています。大池に連れてこられた子どもたちはあまり経験がない対象に心を躍らせ好奇心のかたまりになります。子どもたちには、身近な自然と接し、自然を知り自然とのつきあい方を学ぶ場として役立つでしょう。実在する文化遺産に触れて歴史を肌で感じ、地域の伝統文化に目を向けることは、経済のグローバル化の大波が打ち寄せる昨今において、民族のアイデンティティを確認するためにも重要なことです。
この貴重な環境は、古くから地元の方々が守り育んできた財産です。保全は地元、地権者の協力が不可欠です。地権者の権利を損なわない形の保全策を探るとともに、地元の方々の生活環境や地域社会を守る形で実現しなければなりません。大池のような人里の環境の保全には維持、管理を継続的に行うことが必要です。地元の人たちが積極的に関われる方策を考え、山林や農業を地域の独自性を生かしながら動植物の多様性を維持し、市民と地権者、行政が一体となり、地域の風俗、習慣を尊重しつつ新しい文化の創造を図り、地権者、地元の方々が先祖にも子孫にも、世界に、全国に誇れる保全を進めることを要望します。
2.宍塚地区区画整理事業計画の問題点
(土浦市第五次総 基本構想 後期基本計画―平成8年)
1、基本構想について
「第1章 理念と将来都市像 第1節 まちづくりの理念」の1つとして「やすらぎのある快適環境都市」としていますが、やすらぎと言う呼称はやや抽象的です。これを補足する意味で、霞ヶ浦、宍塚大池など里山などを想起すれば、副題として、水(みず)と緑(みどり)のまちづくり、のようなより具体的な市民の生活感になじみ易い呼称が望まれます。自然にたいするキーワードの1つに「斜面林・平地林」をあげていますが、里山(里地)をくわえることは、今日的意味がります。
「第5節 地域別整備の方針 地域づくりの目標」のうち、宍塚町を含む「一中地区地域」については、「水辺空間を生かした快適な都市環境の創造と中核都市に相応しい活力ある中心市街地の形成」の位置付けの中で「・・中心軸を形成する宍塚大池周辺地区については、その自然環境の保全に配慮しつつ、高次の都市機能を有する新業務拠点を形成する。」と規定しています。基本構想であるので「自然環境の保全に配慮」でも良いが、基本計画で具体化されることが当然と思います。「第iv章 施策の大綱 第3節 やすらぎのある都市環境を築く」の中の「公園・緑地、都市景観、等」いずれの項目にも宍塚大池地域が触れられていません。
2、基本計画及び地域別計画について
「第泄煤@部門別計画 新市街地 計画の内容(1)宍塚大池周辺地区の開発」のなかに、またも基本構想で述べられている「自然環境の保全に配慮しつつ・・・新市街地の開発を推進する。」とするのみです。「第7節 公園・緑地 計画の内容(4)宍塚大池公園の整備」については、「宍塚大池周辺地区の開発にあわせて、大池周辺の自然環境を生かした公園として整備を推進する」としていますが、整備目標は具体的に述べられていません。
「第部 地域別計画 第ii章 地域整備の方向 3土地利用」の中では、宍塚大池周辺地区については、「自然環境の保全に配慮しつつ、業務系の新市街地を形成することが課題となっている。」とする基本構想の文言が、最も具体的に述べられる地域計画の段階まで同じであります。また本事業「事業:都市基盤の整備 宍塚大池周辺土地区画整理事業」について「事業主体:未定」が、今日まで続いています。これらを総合すれば、本事業が本質的な問題を含んでいると思われます。
3.宍塚大池周辺地域の自然環境に関する社会的評価と保全に向けて
1.「土浦市宍塚大池地区の自然環境保全と開発との調和に関する研究」(平成6年 土浦市・筑波大学)における宍塚大池地区の評価と保全の必要性について各研究者が次のように記述しています。
【宍塚大池地区の評価】
○ 微小生物の世界でも、いまや大池は貴重な存在となりつつある。(前田p77)
○ 冬鳥の越冬場所として重要な意味をもつ。(斉藤p83)
○ 関東地方平野部の各地で絶滅又は激減している種(チョウ)がかなり残っている。(斉藤p91)
○ 宍塚大池及び付近の水田、水路には、一地域としてはかなり多数のトンボ類が生息している。(斉藤p95)
○(宍塚大池地区の)特徴は、多様な生息場所に依存した種の豊かさ(中略)保全上重要な水生植物の生育条件が今でも残されている(中略)、「かつては普通、今は稀」な植物の宝庫(中略)、生物多様性のための種の貯蔵庫として、また周りの地域への種の供給源としても機能する可能性を持った生物多様性保全のいわば「鍵」ともいえる地域(中略)、植生が支える豊かなファウナ(動物相)が植物の種の保全に果たす役割(をになっている)。(鷲谷p117―9)
○ 広域解析によって、大池とその周辺は、緑が加速的に減少している土浦・筑波研究学園都市地域の中で、まとまりを残している数少ない緑と水の地域である。(安仁谷p131)
○ (存在意義の大きい樹林地のパッチは)宍塚周辺に位置するので、検討対象地域の範囲でこの方法で検討する限り、それらパッチが存在する宍塚大池地区は地域生態系の維持を考えた際に重要な地区であるといえよう。(佐藤らp163)
○ 宍塚・大池地区のような大都市近郊において里山的自然の残る地域は関東地方に置いては極めて少なく、この地域の自然をどのように残せるかは極めて大きな課題である。(安田らp186)
○ (宍塚・天王池)地区が自然環境保全上非常に重要な地区であるという認識のもとに (石田p218)
○ 宍塚大池周辺の風景と生物的な自然を適切に保全し維持管理して次代に引き継ぐべき「ふるさとの誇り」であると評価。(前田p279)
【保全の必要性】
〇 留鳥や冬鳥の保全に関しては、宍塚大池地区の現状が維持されるなら、あまり。問題はないだろう(斉藤p83)
〇 生息環境が変化すれば、他地域と同様(関東地方平野部の各地で絶滅又は激減しているチョウが)生息できなくなる可能性がある。(斉藤p95)
〇 両種(サシバ、オオタカ)の保全に関しては、少なくとも現状を維持する必要があるだろう。(斉藤p84)
〇 生息環境が変化すれば、他地域と同様(関東地方平野部の各地で絶滅または激減しているチョウが)生息できなくなる可能性がある。(斉藤p91)
〇 現在の(トンボの)生息状況を保つためには、池の周囲ばかりでなく、周辺の林、水田、湿地を含めて保全していく必要がある。(斉藤p95)
〇 この地域の生物多様性の保全は、この変化に富んだ景観全体を保全することにとって初めて可能である。(鷲谷p122)
〇 わが国の生物多様性保全の「要」ともみられる伝統的な二次林的自然からなる景観を保全するためのモデル地域としてふさわしい。(鷲谷p123)
〇 現在、池の周りには建造物が全く見えない素晴らしい特異な景観を保っているが、この景観を壊さないためには開発計画立案の際、特に桜川低地と谷筋の延長上では特別の配慮が望まれる。(安仁屋p131)
〇 土浦地域での相対評価では、宍塚大池周辺の樹林地がこれ(生態的機能の高い樹林地)に該当することから、その保全を優先することが重要となる。(佐藤らp164)
この研究によると、現状が改変されたら大きな影響があることを、それぞれの生物の専門家が述べています。そして、この地区保全がきわめて重要な課題であることが、他分野の研究者からも累々と述べられています。全域を保全すべきであるとの意見も複数の執筆者から出されていて、研究スタッフはきっちりとこの地域の環境を評価し、保全の重要性を訴えています。
生物多様性国家戦略の策定(1995年10月閣議決定)に基づき、1997年12月に環境庁から『宍塚大池及び隣接林地』が「伝統的な土地利用により形成された注目すべき二次的自然」にあたり、生物多様性保全のための重要地域に選ばれています。茨城県内で選定された「伝統的な土地利用により形成された注目すべき二次的自然」は、『宍塚大池及び隣接林地』と『霞ヶ浦周辺ハス田』の2箇所です。重要地域は、「区域ごとの生物学的特性を維持していく上でコアとなる生態系」という表現がされています。宍塚大池の場合は選定事由に照らして、“二次的な自然として維持しつつ生物の保全を図っていく”ことが期待されている地域です。また将来は、生態系の水平的なつながりを回復する“生態系ネットワーク”の核として期待されています。
里山は、もともとは食料生産の場であつたが、近年では、水質源涵養などの公益機能も見直されています。また、多様な環境が有機的に結びついてセットで存在することによって、多様な生物を育み、持続可能な食料生産を可能にしています。こうした、里山での、人と自然の共存の技術は、文化的歴史的な価値を持っているのみならず、持続可能な食料生産システムとして、現在、世界的に注目を集めています。
このような里山は、こどもの原体験、環境教育、保健・休養等、まさに人と自然との触れ合いの場として、かけがえのない場所と言えます。そしてこのような場所は、身近にあってこそ意味があるものであり、他地域に同様な環境が存在するからといって代換えできるものはありません。
3.宍塚大池は1989年5月『茨城の自然100選』(朝日新聞水戸支局編)に選定されています。選定基準は、
(1)植物の生態がよく保たれている山、森林、渓谷、湖沼、河川、海岸など
(2)日本の植生からみて重要な自然林、例えばブナ林など
(3)昆虫や野鳥など、小動物の生息地、野草などの自生地として学術的に貴重な自然
(4)渡り鳥の中継地となっている森林、河川、湖沼、海岸
(5)文化史跡と豊かな自然に恵まれたところ
(6)身近な都市公園、鎮守の森、散策路、野鳥の森、自然歩道など
(7)人の営みが自然の形態を作り出した屋敷林、平地林など
(8)地元で親しまれながら、広く知られていない隠れた自然
(9)開発後でも、住民の努力などで自然の復元が期待できるところ
に従って選定されたものです。
そこで、宍塚大池は『貴重な《自然の宝庫》』と紹介されています。
4,1997年制定の環境影響評価法に基づく新しい環境アセスメントでは、自然環境に関する項目に「生態系」と「人と自然との豊かな触れ合い」が入ることになりました。これまでの「保全目標クリア型」から環境影響をできる限り回避・低減させるための「ベスト追求型」の考え方をとり入れることや、スクリーニング、スコーピングの手続きの導入など新しい考え方が取り入られるようになりました。このことは、従来から環境保全の対象とされてきた生活環境並びに自然環境に加えて、人と自然との豊かな触れ合いの確保が重要な柱として位置づけられ、身近な自然の重要性に対する認識が定着してきたことをあらわすものです。
5,平成10年の中央教育審議会では、知識偏重教育を反省し、「生きる力」を育むことを新しい目標に定めています。新しいカリキュラムとして「総合的な学習の時間」が設けられ,2002年から本格的な導入がなされます。「総合的な学習の時間」は、これまでとかく画一的といわれる学校の授業を変えて、(1)地域や学校、子どもたちの実態に応じ、学校が創意工夫をいかして特色ある教育活動が行える時間(2)国際理解、情報、環境、福祉・健康など従来の教科をまたがるような課題に関する学習を行える時間、として新しく設けられるものです。この時間は、小学校では3年生以上から週当り3時間程度、中学校では週当り2〜4時間程度、高等学校では卒業までに3〜4単位配当され、子どもたちが各教科等の学習で得た個々の知識を結び付け、総合的に働かせることができることを目指しています。
里山を対象とする環境教育では、里山のような自然を大切に思う自然観あるいは価値観を育てるとともに、自ら課題を見つけ、問題を解決していく資質を育む場として重要な役割を持ちます。
6,宍塚大池周辺地域には、「上高津貝塚ふるさと歴史の広場」があります。これは、「国指定史跡上高津貝塚」部分(約4.4ha)と「考古資料館」(約0.5ha)から構成されています。土浦市の「上高津貝塚ふるさと歴史の広場」のパンフレットによれば、≪縄文時代における人々の生活は、自然との共生をもとに発達していました。上高津貝塚は、縄文の人々が現代の私たちに残してくれた、大切な自然とのつきあい方を示唆している貴重な財産です・・・こうして生まれた「上高津貝塚ふるさと歴史の広場」は、利用者の皆様に縄文時代の雰囲気や文化に触れられる施設として、また憩いの広場として活用されることを期待してここに開館いたしました≫と、記しています。しかし、「上高津貝塚ふるさと歴史の広場」は、その区域だけでなく、それを取り巻く森林の自然環境と一体で構成されています。
「上高津貝塚ふるさと歴史の広場」は、周囲にひろがる宍塚の里山の豊かな自然と一体となって、その価値が存在していることは周知の事実です。宍塚地区の里山と連携するなら自然と歴史の一層の継承・発展が期待されます。
7,身近な自然環境を保全する方法として、「自然観察の森」(横浜自然観察の森、牛久自然観察の森など)、「市民の森」(横浜市、千葉市など)、「市民農園・学童農園」(各市町村多数)が開園さえています。また、都市公園法の「都市林」(流山市)で保全する方法もあります。
土浦市でも「市民の森」を市街地周辺の平地林など既存緑地の保全を図るとともに、自然をいかした市民の憩いとふれあいの場の創出するということで、計画しています。
また、「市民農園」を、市民が土に親しみ農業に対する理解を深めることができるということで、数カ所で実施しています。それらの有力な対象地として、宍塚大池周辺地域は条件をみたしています。