宍塚大池地域自然環境調査報告書
茨城県土浦市の西部にある宍塚大池は、台地が浸食されてできた3本の谷(谷津)を堰止めて作られた面積が3.3haの溜池である。複雑に入り組んだ池の岸は護岸工事がされておらず、水辺から周りの林へと緑が連なっている。池の周辺約100haの地域には、アラカシ、シラカシなどの常緑広葉樹の植林地などが広がっている。
大池に流入する河川はなく、池の水源は比高が20mほどの周囲の林からの絞り水、つまり湧き水である。一方、大池から流れ出るただ一本の小川は、桜川を経て、霞ヶ浦へと注いでいる。
さらにこの一帯は、縄文時代から人が生活した証が遺跡として13箇所残り、中でも上高津貝塚は国指定の遺跡として史跡公園化が進められている。
この里の自然を巡って、野外観察会や雑木林の下草刈り、水生植物であるオニバス(絶滅危惧植物)救出のためのハス刈などの野外活動を続けるとともに、身近な里の自然について現状と保全を考える全国的な3回のシンポジウム(オニバスサミット、里山サミット、サシバサミット)などの学習会、その他さまざまな活動を行ってきた。
活動の一環として、1990年からは本格的な生物調査も開始した。調査に当たっては、それぞれの分野の専門家に調査手法などの指導を仰ぎ、直接調査に参加していただいたり、資料の同定や分析をお願いした。
この結果この場所が関東平野でも有数の自然の宝庫であることが明らかになった。
かつては、当たり前であった身近な里の自然が今や風前の灯火になっている。
宍塚大池地区では、現在、土浦市によって区画整理事業が計画されている。事業の進展の如何によっては、この場所の自然環境が大きな影響を蒙る可能性はきわめて大きいと予想される。そこで当地域の自然環境について総合的な報告書の作成が急務と考え、これまでに蓄積した調査結果に加え、多方面の研究者の協力を得て、「宍塚大池地域自然環境調査報告書」をまとめた。
この報告書では自然環境について20の分野から現況を報告している。ここで取り上げた項目の他にも調査中あるいは調査したい項目がまだいろいろあるが、それらについては別の機会に譲りたい。
里の自然の多くは民有地に残されている。
地権者の理解と協力のもとに、保全を実現するためには、保全の手法について調査する必要があると考えて、最終章をこれに当てた。
里の自然の保護、生物の多様性の維持の潮流は、いま急速に日本中に広まりつつある。それに伴って、制度も政策も変わりつつある。そうした流れの中で、この本が「宍塚大池保全」に役立つだけでなく、より広い自然保護運動にも貢献できればと思っている。
この報告書は、日本自然保護教会のプロ・ナトューラ・ファンドの助成をいただいて、出版することができた。
(以上、まえがきより)
発行:1995年11月1日
全224ページ 頒価1000円
目次
はじめに
報告書制作者一覧
1 宍塚大池の谷津の成り立ち 池田 宏 ---5
2 宍塚大池土壌予察調査 小原 洋、加藤 邦彦 ---13
3 宍塚の水文環境 田瀬 則雄 ---20
4−1 宍塚大池の水質 岡本 玲子 ---36
4−2 宍塚大池の池水の水質変動 春日 清一 ---52
5 宍塚大池周辺の気候 高橋 俊二 ---56
6 宍塚大池の藻類 原 慶明、後藤 道美 ---60
7−1 植物相とその保全上の価値 鷲谷 いづみ ---85
7−2 宍塚大池地区の植物相の変遷についての所感 後藤 直和 ---120
8 水生植物の分布 鷲谷 いづみ ---123
9 宍塚大池のトンボ 広瀬 誠 ---129
10 シデムシを指標とした環境評価 森本 信生 ---138
11 宍塚大池地区のチョウ 及川 ひろみ、松井 安俊 ---142
12−1 宍塚大池周辺のクモ類 松田 浩二、森本 信生 ---148
12−2 茨城県土浦市でトサハエトリが採れた 池田 博明 ---152
13 宍塚大池とその周辺に生息する両生類 門脇 正史 ---153
14 宍塚大池とその周辺の爬虫類 門脇 正史 ---158
15 宍塚大池地区の鳥類 及川 ひろみ ---160
16 サシバの行動圏調査 及川 ひろみ、福田 篤徳 ---169
17 宍塚大池地区のキツネ生息状況 及川 ひろみ、中園 敏之 ---175
18 景観−国際景観生態学会日本支部大会におけるアンケート 鷲谷いづみ ---180
19 明治初年における宍塚大池周辺の土地利用形態 和佐田 宣英 ---187
20 学校教育と宍塚大池 志賀 伸三郎 ---192
21−1 緑地を保全する法律制度について 宍塚の自然と歴史の会 ---199
21−2 宍塚大池地区の野生動植物を中心とする公園整備サイトとしての適性 日置 佳之 ---205
21−3 保健保安林と都市の緑地保全 和佐田 宣英 ---214
会の活動紹介・観察会・土曜談話会 ---220
あとがき
| 出版案内 |
宍塚の自然と歴史の会 1999